0.目次
3.花粉症の「最小持続炎症(minimal persistent inflammation)」と初期療法の有効性
1.花粉症とは
花粉症は、花粉抗原による季節性アレルギー性鼻炎のひとつです。
アレルギー性鼻炎は、鼻粘膜のⅠ型アレルギー性疾患です。
Ⅰ型アレルギーは「即時型アレルギー」ともいい、原因となる抗原(花粉抗原など)に曝露されてから15分~30分程度でアレルギー反応が最大に達します。抗原(花粉抗原など)に特異的な「IgE」という抗体を介してアレルギー反応がおこります。
花粉症の3大症状は「発作性反復性のくしゃみ」「水様性鼻漏(はなみず)」「鼻閉(はなづまり)」です。
2.花粉症の診断
花粉症の診断は、花粉飛散季節に症状(くしゃみ・鼻水・鼻づまり)があり、アレルギー性鼻炎以外の疾患(風邪など)を除外することで臨床的に診断されることが多いです。
また、特徴的な鼻粘膜所見と、血清特異的IgE抗体(採血検査)が同定されると、より確実です。
3.花粉症の「最小持続炎症(minimal persistent inflammation)」と初期療法の有効性
最小持続炎症とは、症状が出ない程度の花粉量でも、鼻粘膜にはアレルギーの原因となる免疫細胞の浸潤が認められることです。
最小持続炎症により、鼻粘膜過敏性が生じ、すくない花粉量でもアレルギー反応が起こってしまいます。
このため、例年強い花粉症症状がでる方には、花粉飛散前かごく初期に、「最小持続炎症」を抑える初期療法が有効です。初期療法により、花粉飛散ピーク時の症状悪化を抑制したり、内服期間を短くすることができると報告されています。
4.花粉症の初期治療
以下の薬物が用いられます(カッコ内は代表的な薬剤の商品名)。
① 第2世代抗ヒスタミン薬(アレグラ、アレロック、ザイザル、ビラノア、ルパフィン、タリオンなど)
② ケミカルメディエーター遊離抑制薬(リザベンなど)
③ ロイコトリエン受容体拮抗薬(シングレア・オノンなど)
④ 抗プロスタグランジンD2・トロンボキサンA2薬(バイナス)
⑤ Th2サイトカイン阻害薬(アイピーディ)
⑥ 鼻噴霧用ステロイド薬(ナゾネックスなど)
<しゃみ・鼻漏(はなみず)型の初期治療>
①②⑥のいずれかを用います。
<鼻閉(はなづまり)型の初期治療>
③④⑤⑥のいずれかを用います。
5.花粉症の治療
アレルギー性鼻炎の治療は、抗原(花粉)の除去と回避(マスク・メガネなど)、薬物療法、アレルゲン免疫療法、手術療法があります。
薬物治療については、初期治療に用いた薬剤に加えて、重症度に応じて経口ステロイド薬、抗IgE抗体薬、点眼薬を用います。
各抗ヒスタミン薬の特徴について示します。
抗ヒスタミン薬では、眠気の副作用が問題となることがあり、これは薬剤の脳内H1受容体占拠率と関連していることが報告されています(下図左側のグラフ)。
初期に開発された第1世代抗ヒスタミン薬(d-クロルフェニラミン、ジフェンヒドラミン、ヒドロキシジンなど)では、即効性はありますが、作用時間が短く、脳内H1受容体占拠率が高い(50%以上)ために眠気の副作用が強い薬剤が多いです。
後に開発された第2世代抗ヒスタミン薬では、脳内H1受容体占拠率は20%以下と低く、眠気の副作用が改善されており、添付文書に自動車運転の注意記載がない薬剤もあります(ビラスチン、フェキソフェナジン、デスロラタジン、ロラタジン)
一日の内服回数の違いや、抗ヒスタミン以外の作用機序を合わせ持つ薬剤もあり、個々の症例に応じた選択が望まれます。
6.アレルゲン免疫療法(舌下免疫療法)
アレルゲン免疫療法は、アレルゲン(花粉の成分)を投与することで、アレルゲンによる症状を緩和する治療で、花粉症を根本的に治療していく唯一の治療です。
通常、花粉の飛散していない時期に開始し、治療開始から1年程度で治療効果が得られることが多く、3年程度の継続治療が必要です。
また、治療前に採血にて血清特異的IgE抗体の同定が必要です。
7.当院での花粉症治療
花粉飛散前か飛散間もない初期から、「初期療法」の実施を推奨しています。
花粉飛散期には、症状に応じた投薬をします。
採血での血清特異的IgE抗体検査を一度も実施したことがない方については、なるべく検査の実施をおすすめしています。
また、非シーズン期には、根本治療である「アレルゲン免疫療法(舌下免疫療法)」の開始が可能です。
出典「2020年版 鼻アレルギー診療ガイドライン-通年性鼻炎と花粉症-」