目次
5.糖尿病の慢性期合併症について:糖尿病網膜症・糖尿病性腎症・糖尿病性神経障害・動脈硬化性疾患(心疾患・脳血管疾患・末梢動脈疾患)
8.糖尿病の個別化医療の可能性について:グループ分けの指標・グループの特徴
1.糖尿病治療は妙蓮寺内科へ:偏見にNO!
当院では、「健康診断で高血糖を言われた」「糖尿病の可能性をいわれた」患者さんが多く来院されます。
「食事や仕事を他の人と同じようにできないのでは」「自分の生活習慣が悪いから」などといった誤った認識・偏見により、来院を躊躇される方もいらっしゃるかもしれません。しかし、糖尿病は早期から適切な治療をおこなうことで、合併症を予防し、健康な人とかわらない人生を送ることができます。
糖尿病は初期には無症状のことがほとんどです。健康診断で指摘されたり、この記事で思いあたる項目がある方は、当院へお気軽にご相談ください。
当院では、個々の患者さんの臨床的指標をもとに、最適な治療を提案しています。
2.糖尿病とは
糖尿病とは、「インスリン」というホルモンの作用不足によりおこる疾患です。
「インスリン」は、体が糖分をエネルギーとして利用するために必要なホルモンですので、「糖尿病」ではその作用が不足するために、血液中の糖分利用できません。
そのため、血液中の糖分が常に高い状態(高血糖状態)となります。
3.糖尿病の原因
インスリンの作用不足は主に、①インスリンの分泌不足と、②体の組織でのインスリン抵抗性増大(インスリンがあっても効果が出づらい状態)が原因でおこります。
3-1. 1型糖尿病
「1型糖尿病」では、インスリンを合成する膵臓の組織が破壊されて、インスリンの分泌が減少することでおこります。
3-2. 2型糖尿病
「2型糖尿病」では、遺伝因子・環境因子と糖毒性が複雑に関与して発症します。
☆遺伝因子:インスリン分泌低下やインスリン抵抗性をきたす素因を含む複数の遺伝因子
☆環境因子:過食(とくに高脂肪食)・運動不足・肥満・ストレス・加齢
☆糖毒性:高血糖状態の持続によりインスリン分泌不全と作用障害がさらに増悪する悪循環

3-3. 妊娠糖尿病
「妊娠糖尿病」とは、妊娠中にはじめて発見・または発症した糖尿病に至っていない糖代謝異常症です。胎児の過剰発育や周産期異常のリスクが高く、適切な管理が必要です。
4.糖尿病の症状
糖尿病では、インスリンの作用不足により高血糖状態が続き、以下のような症状をおこあす場合がありますが、無症状のこともあります。
・口渇・多飲・多尿:血糖値が高いと必要以上に尿がたくさん作られてしまい、脱水状態となり、喉が渇いてたくさん水分をとりたくなる
・体重減少:インスリン不足により糖分を細胞や組織で利用できずにやせてしまう
・易疲労感:糖分をエネルギーとして利用できないために疲れやすくなる
・昏睡・意識障害:血糖値が著しく上昇すると、昏睡状態となることがある
・慢性期の合併症(網膜症・腎症・神経障害・動脈硬化)による症状
5.糖尿病の慢性期合併症について
長時間持続する高血糖・脂質異常を含む代謝異常と、高血圧などの血管障害因子によって、全身の血管を中心としてあらゆる臓器に障害がおこります。
5.1 糖尿病網膜症(眼の障害)
網膜は、眼の奥にある光を感じ取る透明な構造物です。糖尿病では、この網膜の血管壁細胞や血流に異常がおこり、視力低下がおこります。糖尿病と診断された方については、定期的な眼科受診をおすすめしています。

5.2 糖尿病性腎症
腎症が進行して腎不全となった際には「人工透析」が必要になりますが、新規に透析が必要となる患者さんの約4割が、糖尿病性腎症であると報告されています。
当院では、定期的に採血・尿検査で腎症の状態についてチェックしています。

5.3 糖尿病性神経障害
血糖値が高い状態が持続することにより、主に両足の感覚・運動神経障害と、自律神経障害の症状がおこります。両足のしびれ、痛み、知覚低下、異常知覚などの症状から疑います。知覚低下は足潰瘍や足壊疽の原因となり得ます。
足の症状や自律神経の異常が気になる方はご相談ください。

5.4 動脈硬化性疾患
A.心疾患・冠動脈疾患(狭心症・心筋梗塞)
心臓に血液をおくる「冠動脈」が障害されます。胸痛・息切れなどの胸部症状で発症することが多いですが、糖尿病患者さんは症状がはっきりせずに重症化してから判明することもあります。心臓突然死の原因となります。
当院では心臓精査が可能ですので、胸部症状が気になる方・ご家族に心疾患の方がいる場合には、ご相談ください。

B.脳血管障害(脳梗塞・脳出血)
脳に血液をおくる「脳動脈」が障害されます。突然の麻痺(手足や顔が動かなくなる)や感覚障害、ろれつ障害、めまいなどで発症します。
このような症状が出現した場合、連携病院へ頭部CT・MRIの実施や緊急での診療を依頼しています。

C.末梢動脈疾患(閉塞性動脈硬化症・重症下肢虚血)
足に血液をおくる「下肢動脈」が障害されます。初期には歩行時の下肢痛で発症し、進行すると安静時にも下肢痛があり、足壊疽から切断が必要になることもあります。
当院では閉塞性動脈硬化症の評価が可能ですので、下肢の症状が気になる方はご相談ください。
6.糖尿病の診断
図のように、血液検査での血糖値とHbA1c値の測定により、糖尿病と診断します。
典型的な症状と高血糖があった場合には、血糖値のみ糖尿病型でも糖尿病と診断します。
2型糖尿病の頻度が高いですが、1型糖尿病の可能性についても検査(採血など)が望ましいです。

(OGTT:経口ブドウ糖負荷試験)
7.治療
7.1 治療の目標
治療目標は、糖尿病の合併症(網膜症・腎症・神経障害・動脈硬化性疾患)を予防し、偏見による不利益をを受けずに、健康な人と変わらない人生をおくることです。
そのためには、治療の継続と、患者様の継続的な自己管理が必要です。
当院では、日本糖尿病協会作成の糖尿病カードシステムを採用しており、患者様の糖尿病理解と、日常生活での配慮がスムーズにできるよう心がけています。
治療の指標は、主に血液検査でのHbA1c値によって判断します。HbA1c値は、過去1~2ヶ月間の平均血糖値を反映する指標です。
当院では、院内でHbA1c値を測定しており、5分程度で結果が判明します。


7.2 治療方針
自己のインスリンの絶対的不足があるかどうかで治療がかわります。
自己のインスリンが絶対的に不足する状態(インスリン依存状態)や、1型糖尿病が強く疑われる場合には、直ちにインスリン治療(注射薬)を開始します。

インスリン非依存状態・2型糖尿病と考えられる場合は、食事療法・運動療法を基本とし、薬物治療を考慮します。
使用薬剤については、年齢や肥満の程度、慢性合併症の程度、肝・腎機能、インスリン分泌能やインスリン抵抗性の程度を評価し、決定します。
また、血糖値がなかなか改善しない場合、糖毒性を解除するために、一時的にインスリン製剤(注射製剤)を使用することがあります。その場合、病状が改善した場合には、内服薬に戻せることがあります。

8.糖尿病の個別化医療の可能性について
ひとくちに糖尿病といっても、1型(自己インスリンの絶対的不足)なのか2型(インスリン非依存状態)なのかはもちろん、一般的な2型糖尿病の中でも発症年齢や肥満かどうかなど、それぞれの患者さんの特徴によって、おこりやすい合併症が異なり、効果の高い薬が異なると考えられています。
福島県立医科大学の先生の報告では、個々の糖尿病患者さんが「どんな合併症になりやすいか?」「どんな治療が最適か?」がわかるかもしれない、新しい糖尿病のグループ分け(クラスター分類)を試みています。
このグループ分け(クラスター分類)では、以下の6つの臨床的指標を用いています。当院でも、これらの指標を用いて最適な治療を選択しています。
8-1 糖尿病のグループ分けの指標
✔ 抗GAD抗体:インスリンを作る細胞を破壊してしまう自己抗体
✔ 発症年齢
✔ BMI(体格指数):肥満かどうかの指標
✔ HbA1c:高血糖の指標
✔ HOMAβ:インスリン分泌能の指標
✔ HOMA-IR:インスリン抵抗性の指標
8-2 糖尿病のあたらしいグループ分けと特徴(推定を含む)

1群:自己免疫性糖尿病(抗GAD抗体陽性+インスリン分泌不全+非肥満)
インスリンを分泌する細胞を破壊する「抗GAD抗体」が陽性です。
1型糖尿病の大部分がこちらに分類されます。
治療薬は、インスリンの注射が必要なことがほとんどです。
合併症は、高血糖に起因する網膜症のリスクが高いと報告されています。また、サルコペニア(※)のリスクが高いと考えられています。
※サルコペニア:加齢に伴う骨格筋量減少と筋力低下の状態であり、転倒・骨折・要介護・死亡リスクが高いと言われています。

2群:インスリン欠乏性糖尿病(高HbA1c+インスリン分泌不全+非肥満)
遺伝的なインスリン分泌不全により糖尿病を発症し、高血糖・HbA1c高値となります。
治療薬は、インスリン分泌促進系の薬剤(③DPP4阻害薬④GLP-1受容体作動薬⑥グリニド薬)や、早期のインスリン導入を考慮します。
合併症は、1群と同様に、高血糖に起因する網膜症のリスクと、サルコペニアのリスクが高いと考えられています。

3群:インスリン抵抗性糖尿病(肥満+高インスリン血症・抵抗性)
肥満・内臓脂肪・異所性脂肪により、インスリン抵抗性が増大し、高インスリン血症となるグループです。脂肪肝の合併など高中性脂肪・低HDLコレステロール血症からも血管障害をおこしやすいため、心血管疾患の合併症が多いと考えられています。
他の4群と比べて糖尿病性腎症による末期腎不全(透析導入)のリスクが高く、冠動脈疾患(狭心症・心筋梗塞)も1群・2群・4群に比べて2倍ほど高いことが報告されています。
治療は、食事・運動・体重管理などの包括的治療が望まれます。治療薬は、インスリン抵抗性を改善する薬剤(①ビグアナイド薬②チアゾリジン薬)をはじめ、④GLP-1受容体作動薬などが選択されます。

4群:肥満関連糖尿病(肥満+若年発症)
肥満があって若年発症ですが、インスリン抵抗性が比較的軽い群です。
同じ肥満でも、糖尿病性腎症のリスクは3群の半分以下という報告があり、その他合併症のリスクも低い、軽症のタイプと考えられています。
治療は、体重管理・食事・運動療法が主体であり、治療薬はインスリン抵抗性改善薬(①ビグアナイド②チアゾリジン)を中心に選択します。

5群:加齢関連糖尿病(高齢発症+非肥満)
肥満はないものの、加齢に伴うインスリン分泌低下にともない糖尿病を発症します。
高齢のため併存疾患が複数あることもあり、合併症をおこしやすいと考えられています。冠動脈疾患(狭心症・心筋梗塞)と、フレイル(※)のリスクが高いと考えられています。
治療は、低血糖や多剤服用のリスクに注意しながら、個々の患者さんの状態に応じて、包括的治療(食事・運動・薬剤)をおこないます。
※フレイルとは加齢により心身が老い衰えた状態を指します

(文献:日本糖尿病学会編・著「糖尿病治療ガイド」、JADEC誌2025年12月)
