目次
5.糖尿病の慢性期合併症について:糖尿病網膜症・糖尿病性腎症・糖尿病性神経障害・動脈硬化性疾患(心疾患・脳血管疾患・末梢動脈疾患)
1.糖尿病治療は妙蓮寺内科へ:偏見にNO!
当院では、「健康診断で高血糖を言われた」「糖尿病の可能性をいわれた」患者さんが多く来院されます。
「食事や仕事を他の人と同じようにできないのでは」「自分の生活習慣が悪いから」などといった誤った認識・偏見により、来院を躊躇される方もいらっしゃるかもしれません。しかし、糖尿病は早期から適切な治療をおこなうことで、合併症を予防し、健康な人とかわらない人生を送ることができます。
糖尿病は初期には無症状のことがほとんどです。健康診断で指摘されたり、この記事で思いあたる項目がある方は、当院へお気軽にご相談ください。
2.糖尿病とは
糖尿病とは、「インスリン」というホルモンの作用不足によりおこる疾患です。
「インスリン」は、体が糖分をエネルギーとして利用するために必要なホルモンですので、「糖尿病」ではその作用が不足するために、血液中の糖分利用できません。
そのため、血液中の糖分が常に高い状態(高血糖状態)となります。
3.糖尿病の原因
インスリンの作用不足は主に、①インスリンの分泌不足と、②体の組織でのインスリン抵抗性増大(インスリンがあっても効果が出づらい状態)が原因でおこります。
「1型糖尿病」では、インスリンを合成する膵臓の組織が破壊されて、インスリンの分泌が減少することでおこります。
「2型糖尿病」では、遺伝因子・環境因子と糖毒性が複雑に関与して発症します。
☆遺伝因子:インスリン分泌低下やインスリン抵抗性をきたす素因を含む複数の遺伝因子
☆環境因子:過食(とくに高脂肪食)・運動不足・肥満・ストレス・加齢
☆糖毒性:高血糖状態の持続によりインスリン分泌不全と作用障害がさらに増悪する悪循環
4.糖尿病の症状
糖尿病では、インスリンの作用不足により高血糖状態が続き、以下のような症状をおこあす場合がありますが、無症状のこともあります。
・口渇・多飲・多尿:血糖値が高いと必要以上に尿がたくさん作られてしまい、脱水状態となり、喉が渇いてたくさん水分をとりたくなる
・体重減少:インスリン不足により糖分を細胞や組織で利用できずにやせてしまう
・易疲労感:糖分をエネルギーとして利用できないために疲れやすくなる
・昏睡・意識障害:血糖値が著しく上昇すると、昏睡状態となることがある
・慢性期の合併症(網膜症・腎症・神経障害・動脈硬化)による症状
5.糖尿病の慢性期合併症について
長時間持続する高血糖・脂質異常を含む代謝異常と、高血圧などの血管障害因子によって、全身の血管を中心としてあらゆる臓器に障害がおこります。
5.1 糖尿病網膜症(眼の障害)
網膜は、眼の奥にある光を感じ取る透明な構造物です。糖尿病では、この網膜の血管壁細胞や血流に異常がおこり、視力低下がおこります。糖尿病と診断された方については、定期的な眼科受診をおすすめしています。
5.2 糖尿病性腎症
腎臓は、糸球体という血管で血液をろ過して尿を作っています。糖尿病性腎症では、この糸球体血管が障害を受けます。そのため、腎症初期には尿蛋白が陽性になります。腎症が進行すると、尿がうまくつくれずに、全身がむくんだり、心不全をおこします。
腎症が進行して腎不全となった際には「人工透析」が必要になりますが、新規に透析が必要となる患者さんの約4割が、糖尿病性腎症であると報告されています。
当院では、定期的に採血・尿検査で腎症の状態についてチェックしています。
5.3 糖尿病性神経障害
血糖値が高い状態が持続することにより、主に両足の感覚・運動神経障害と、自律神経障害の症状がおこります。両足のしびれ、痛み、知覚低下、異常知覚などの症状から疑います。知覚低下は足潰瘍や足壊疽の原因となり得ます。
足の症状や自律神経の異常が気になる方はご相談ください。
5.4 動脈硬化性疾患
A.心疾患・冠動脈疾患(狭心症・心筋梗塞)
心臓に血液をおくる「冠動脈」が障害されます。胸痛・息切れなどの胸部症状で発症することが多いですが、糖尿病患者さんは症状がはっきりせずに重症化してから判明することもあります。心臓突然死の原因となります。
当院では心臓精査が可能ですので、胸部症状が気になる方・ご家族に心疾患の方がいる場合には、ご相談ください。
B.脳血管障害(脳梗塞・脳出血)
脳に血液をおくる「脳動脈」が障害されます。突然の麻痺(手足や顔が動かなくなる)や感覚障害、ろれつ障害、めまいなどで発症します。
このような症状が出現した場合、連携病院へ頭部CT・MRIの実施や緊急での診療を依頼しています。
C.末梢動脈疾患(閉塞性動脈硬化症・重症下肢虚血)
足に血液をおくる「下肢動脈」が障害されます。初期には歩行時の下肢痛で発症し、進行すると安静時にも下肢痛があり、足壊疽から切断が必要になることもあります。
当院では閉塞性動脈硬化症の評価が可能ですので、下肢の症状が気になる方はご相談ください。
6.糖尿病の診断
図のように診断します。
典型的な症状と高血糖があった場合には、血糖値のみ糖尿病型でも糖尿病と診断します。
2型糖尿病の頻度が高いですが、1型糖尿病の可能性についても検査(採血など)が望ましいです。
7.治療
7.1 治療の目標
治療目標は、糖尿病の合併症(網膜症・腎症・神経障害・動脈硬化性疾患)を予防し、偏見による不利益をを受けずに、健康な人と変わらない人生をおくることです。
そのためには、治療の継続と、患者様の継続的な自己管理が必要です。
当院では、日本糖尿病協会作成の糖尿病カードシステムを採用しており、患者様の糖尿病理解と、日常生活での配慮がスムーズにできるよう心がけています。
治療の指標は、主に採血でのHbA1c値によって判断します。HbA1c値は、過去1~2ヶ月間の平均血糖値を反映する指標です。
当院では、院内でHbA1c値を測定しており、5分程度で結果が判明します。
7.2 治療方針
自己のインスリンの絶対的不足があるかどうかで治療がかわります。
自己のインスリンが絶対的に不足する状態(インスリン依存状態)や、1型糖尿病が強く疑われる場合には、直ちにインスリン治療(注射薬)を開始します。
インスリン非依存状態・2型糖尿病と考えられる場合は、食事療法・運動療法を基本とし、薬物治療を考慮します。
使用薬剤については、年齢や肥満の程度、慢性合併症の程度、肝・腎機能、インスリン分泌能やインスリン抵抗性の程度を評価し、決定します。
また、血糖値がなかなか改善しない場合、糖毒性を解除するために、一時的にインスリン製剤(注射製剤)を使用することがあります。その場合、病状が改善した場合には、内服薬に戻せることがあります。
(文献:日本糖尿病学会編・著「糖尿病治療ガイド」)